四字熟語で小話⑩ 一意専心②
前回の続きのお話。( ↓前回のお話です) サイド誠くん。
『一意専心 ②』
僕の家の隣には、蒼ちゃんという幼馴染の女の子が住んでいる。
たまにうちに遊びにきて、僕の部屋で過ごす。
お互い一緒に何かをすることはない。
僕が自分の作っているものに夢中になるから。
蒼ちゃんも特に気にせず、自分のしたいことをしている。
僕は既にそのころから「変わっている」と言われていた。
気にしていないわけじゃない。
人と違うということは、ひどく僕を萎縮させた。
学校でも、どうしてかいつも一人になってしまう。
いつしかそれに慣れ、このままでいいと思えるようになったのは、蒼ちゃんがいたからだった。
小学生の頃、一人家に帰り、部屋でいつものように続きの作業をしていた。
落ち込むことがあっても、作業を始めれば無心になれた。
ふと目を上げた時、蒼ちゃんが遊びに来ていることに気づいた。
部屋に入ったことにも気づかず。
僕が気づいたことを分かって、蒼ちゃんが話し始めた。
学校の友達の相談や、飼っている犬の話など他愛のない話だったが、僕は蒼ちゃんの話す声が好きだった。
そして、僕のことを静かに見守る目や、詮索したり否定したりしないところが僕という存在をそこに留め置いてくれた。
蒼ちゃんを通して、「外」の世界のことを知っていく。
僕が苦手な世界。
でも蒼ちゃんから語られる世界は、どこか美しさと滑稽さを含んでいて好感が持てた。
僕が相談された内容を詳しく把握するため質問をして、それに蒼ちゃんが答える。
僕が相談されたことに対して返答する。
蒼ちゃんは満面の笑顔で「誠くんすごい!ありがとう!そうしてみるね」と嬉しそうにする。
僕はただ、蒼ちゃんの中にあるものを伝えただけだ。
蒼ちゃんの笑顔を見た瞬間、全てが救われた思いだった。
そして僕は、「蒼ちゃん、大人になったら僕と結婚してください」と言った。
蒼ちゃんは目を丸くした後に破顔し、照れるように「いいよ」と言った。
その様子が、脳裏から離れず、胸に刻まれた。
元々記憶力が良く、点でなく、線で覚えていた。
他人もそうだと思っていた。
でも、そうではないことを徐々に知る。
中学に入り、しばらく蒼ちゃんと会うことも少なくなったが、僕にとって蒼ちゃんという人は既に確固たる存在で、会えなくて寂しいという「一般的な」感情はなかった。
特に志望校はなかったため、蒼ちゃんと同じ高校に入学した。
高校でも、蒼ちゃんとはほとんど会うことなく、遠くで部活をしている姿や友達と話しながら下校している姿を見かける程度になった。
高校二年生の冬、自分が好奇心と少しの使命感で作ってきたものがようやく完成した。
ものすごくうれしくて、蒼ちゃんにすぐにでも伝えたかった。
その段になって、僕は蒼ちゃんの連絡先さえ知らないことに気づいた。
また会ったときに言おうと思った。
完成したものを発表する場があり、僕は国際的に評価され表彰されることになった。
先生に伝わり、感嘆を持って賛辞を頂いていた時に、近くの廊下を歩いている蒼ちゃんが見えた。
先生にお断りをし、蒼ちゃんの方へ駆けて行った。
僕は興奮していた。
久しぶりに蒼ちゃんと話ができる。
こんなに嬉しいものなのか。
一気に気持ちが溢れた。
僕は蒼ちゃんに一緒にいてほしかった。
小学生の時の告白のように、笑って承諾してほしかった。
でも、違う反応が返ってきた。
蒼ちゃんは目の前から去っていった。
こういう時、どうすればいい?
僕には、経験から導き出される答えがなかった。
でも、僕が作ったものが評価されたのも、僕が一人でも萎縮せず過ごせたのも、僕が僕でいられたのも全部蒼ちゃんがいてくれたからだ。
結果、どうなってもそれは伝えなければいけないと思った。
僕は、蒼ちゃんを追いかけて走り出した。
おわり