四字熟語で小話④ 羽化登仙
自らの発想力のなさを嘆いた結果、四字熟語から思い浮かぶ事や物、小説風のものまで思い浮かんだことを書いていく。第4回
今回は(も、かな)夢想です。
『羽化登仙』
昨日は確か、仕事帰りに大学時代の友達の家で飲んで、いい具合に酔いが回って、千鳥足で帰宅の途についていた。
何度か歩けなくなって、道端にへたりこんだ。
けども、気分も良くて吹き抜ける風も涼しく、頬に心地よかった。
アパートまであと少し。
社会人2年目の5月、全く別業種に就職した友達3人と、友人の家で近況を話し合おうということになった。
給料の話とか、うざい先輩やできる先輩の話、ボーナスの使い道や仕事の内容、将来の夢、社内で一番の美人の話、とりとめのない話で大いに盛り上がった。
俺は、大体仕事の流れがわかって、親しい先輩もできて、めちゃくちゃタイプの後輩も入社してきて、最近割と楽しい毎日。
友人たちもそれぞれで、超ブラックな会社で退職を考えているやつや、2年目で早くも店長を任されそうなやつもいたり。
色んな話が聞けて、いい刺激になる。
俺も頑張らんとって気になる。
大学時代のいい友人関係が続いているのもうれしいし、何かすげぇ充実してるんじゃないかと思えてくる。
まあ、彼女はいないけど、それはそれ。
今年入社してきた新入社員の女の子は、すごく綺麗な顔立ちで、少し褐色がかった肌の色にくっきりした目鼻立ち、南アジアにいそうな美人な子だった。
俺にとっては理想的な顔立ちに間違いないのだが、話すとなると戦々恐々。
意識しまくってるのがばれるのも社内で居づらいし、ダサいやつとも思われたくない。
できればかっこよく、余裕のある所を見せたい。
しゃべりすぎるのもどうなのかな・・・、要は完全に舞い上がっていた。
飲み会が終わって、アパートまであと数百メートル。
何とか覚束ない体を立て直し、歩き出そうと膝に手をついて身を起こした瞬間、目の前にその新入社員の女の子が。
「な・・・んで。どうしたの?」
自分でも声になったのかどうか。
女の子はただにっこり微笑んでいた。
見るとその姿は、民族衣装のサリーに似た装いに、天女の羽衣のようなものを纏い、うっすら光を放っているように見えた。
女の子は手を差し出す。
訳も分からず、手を取る。
ふわふわと心地よく宙に浮き、インド映画さながら陽気な音楽に合わせて踊る。
踊っているうちに楽しくなり、全ては些細なことのように思えてくる。
何も考えず踊ろう。踊ろう。
目が覚めると、自分のベッドの中だった。
おわり